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刀から滴る血は、赤黒くドロドロとしていた。
妖魔の切り落とされた頭に再び刀を突き刺すその人は、面を付けていて表情はわからないが、無表情なんだろうなと思った。
その姿から何の感情も感じ取れなかったから。
妖魔の頭が灰色の煙をあげながら、消えていく。刀は少し赤く光ったように見えた。
「藍斗!!」
亜子の声がして我に帰る。
そうだ。亜子と奏多!!
振り返ると2人とも俺の側まで来ていた。
妖魔を殺す光景に……魅せられていた。
グロい切り落とされた首に、容赦なく刀を刺すその一連の動きに、何の無駄もなかった。
赤黒い血だまりに立つその兎の面をつけた人物を綺麗だと思ってしまった。
「ねぇ!大丈夫?早く離れようよ」
亜子に腕を引っ張られ、ふらふらと立ち上がる。動かなかった足も動くようになっている。
振り返ると兎の面をつけた人は、こちらをチラリと見たような気がした。
騒がしい都に、妖魔が沈む。
「藍斗、大丈夫か?」
「あぁ…すまない。助けれなくて」
「あんたね…助けるとかじゃなくて、逃げなきゃダメでしょ!巻き込まれるわよ!」
亜子の言う通りだ。
助けるなんて…そんな簡単に言ってはいけない。動くことさえ恐怖で出来なかった。
守れるようになるには程遠い。
あの兎の面の人が居なければ…亜子と奏多もどうなっていたかは分からない。それに俺も。
「にしても、あの人なんだったんだろ?アービターの人かな?」
亜子が言う。既に兎の面の人は居なくなっていた。そうか…あの動きはアービターだからか。納得してしまったよ。
ざわざわしていた周りも静まり、形もなく消えた妖魔が残したのは、少量の血と肉片だった。
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