第一話 迷い犬がおおすぎる フシギ編

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第一話 迷い犬がおおすぎる フシギ編

『迷い犬、さがしています』  そんなチラシが通学路の電信柱につけられるようになってからもう一週間になる。 『なまえ:シロ』 『おんなのこ』 『5さい』  チラシに書かれている情報はそれぐらいで、あとは連絡先と犬の絵が描かれているだけ。 「最近あのチラシ、よく見るね」  隣のクラスの友達、五百蔵(いおろぎ)ナナちゃんが言う。  ずっとロングヘアな私と違って、ショートボブがよく似合うナナちゃんとは小学校に入学してから五年生になるまでいつも同じクラスで仲良しだったのに、六年生になってからクラスが分かれてしまった。  一緒のクラスじゃないのはさみしいけれど、家が近いから帰り道はいつも一緒に帰っている。  私たちの家は学校から少し遠くて、歩いたら30分ぐらいかかる。  その間に信号のない横断歩道があったり、ゲームセンターや幼稚園があったり、裏道に入ったりするから、できるだけお友達と一緒に帰りなさい、なんて入学してからずっと先生たちに言われている。  一人だとつまんない帰り道も、ナナちゃんと一緒ならあっという間だ。 「うん。昨日より増えてるみたい」 「なんでイマドキ手書きで、しかも張り紙なんだろう? ああいうのはネットで情報を集めた方が早く見つかるのに」  ナナちゃんはネットの知識に詳しい。  お母さんがパソコンの仕事をしているせいか、自分のパソコンだって持ってるしスマートフォンもすいすい使える。  私もスマホは持ってるけれど、正直よくわかってない。  メールと、動画を少しみるぐらい。あとはゲームとか。 「きっと、飼い主さんもネットが得意じゃないのかな?」 「紫亜(しあ)っちみたいに?」  ナナちゃんが笑う。  悪気があるわけじゃない。  私がスマホの操作で困っているとき、何度も助けてもらったことがあるから、私はなに言えない。  もしかしたら、ひょっとしたら、私は機械オンチってヤツなのかもしれない。  だって、説明書通りに操作しているはずなのに、なんでいつもおかしくなるんだろう。 「まぁ、誰にでも得意なことと不得意なことがあるよね。あたしだって音楽とかさっぱりわかんないし」 「私、歌も下手だな……」  音楽のテストで散々だった出来を思い出す。  課題の歌と自分の歌声が違うっていうのはわかるのに、なにがどう違うのかさっぱりわからない。これは機械オンチによく似てるかもしれない。  あれは恥ずかしかった……。 「大丈夫! 紫亜(しあ)っちはやさしいから!」 「やさしい……? そうかな?」 「まぁ、やさしいって言うより困ってる人を放っておけないって言った方がいいかな? 転んじゃった下級生がいたら知り合いじゃなくても保健室に連れて行ってあげるし、クラスで悩んでる子がいたら声をかけるじゃない?」 「それは……」  昔から、なんとなくやってしまうことだから『良いこと』だなんて思ったことはなかった。幼なじみの飾磨(しかま)くんには、「あんまりお人好しが過ぎると損するぞ。他人のこと心配してる場合か」なんて言われてしまうけど……。
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