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「あ、もうお別れか」
ナナちゃんとは途中で別れる。
私の家まであと五分くらいなんだけど、最後の分かれ道がバラバラなのだ。
昔は、どうしてナナちゃんはおとなりさんじゃないんだろう?と思っていた。
幼なじみの飾磨くんはお向かいさん。
私の隣の家は、お家はあるけどずっと誰も住んでいなかった。
「じゃあね、また明日!」
「うん、バイバイ」
ナナちゃんは元気に手を振って自分の家へと急ぐ。
私はその後ろ姿を見送ってから、ちょっとため息をついた。
「はぁ……」
クラス替えをしてからもう一ヶ月。
ナナちゃんには言ってなかったけど、私はまだクラスに仲の良い子がいない。
ずっとナナちゃんと同じクラスだったから、てっきり小学校生活最後の六年生も一緒だと思っていたのに。
ぜんぜん誰とも話さないってわけではないけど、なんとなく、うまくいかないのだ。
困っている人をほおっておけないのは本当だけど、最近は私がその『困っている人』になっている。
それに比べてナナちゃんは、新しいクラスでも楽しそうだ。
三クラスしかないから、ほぼ全員のクラスメイトとは顔見知りなんだけどなぁ。
「……ん?」
あと少しで家に着くというところで、黒いランドセルを背負った見知らぬ男の子がジッと家の前の電信柱を眺めていることに気がついた。
男の子は私と同じくらいの身長で、サラサラでストレートの前髪を鼻の頭ぐらいまで長く伸ばしている。
よく見ると、私と同じ小学校に通う城崎くんだった。
城崎くんは六年生になってから私のクラスに転校してきた生徒で、名前は確か……。
「いっせん」
「えっ?」
「僕の名前。城崎一閃っていうんだよ。思い出した?」
私に背を向けたまま、電信柱の迷い犬のチラシからは目をそらさずに城崎くんが言った。
「潤和さんの家はすぐそこなのに、僕の後ろに立ってずっと動かないからさ。僕のことでも気になるのかな、と思って。あ、それとも気になるのはこのフシギな張り紙かな?」
「え、えっと……」
城崎くんとは、はじめて話した。
転校生ってだけでも私の学校では珍しいのに、城崎くんは最初の自己紹介で一言「よろしく」と言ったきり誰とも話そうとはしなかった。
長く伸ばした前髪で、いつも目は見えない。
私と同じで、内気な性格なのかもしれないな……と思っていたからちょっと驚く。
前髪が長いせいで目は相変わらずよく見えないけれど、城崎くんの話し方はとても堂々として落ち着いていた。
「あれ? 違った? 潤和さんってこの辺りじゃ珍しい名字だから、きっとここが家だと思ったんだけど……」
城崎くんが首を捻る。
前髪が流れて、長いまつげに縁取られた綺麗な二重瞼が覗いた。
よく見ると色も白いし、前髪さえなんとかすればクラスの女の子から騒がれそうだなぁ。
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