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「ううん、合ってるよ。そこが私の家。城崎くん、よくわかったね」
「大したことじゃないよ。ねぇ、それより潤和さんが気になってるのは僕のこと? それともこの張り紙のこと?」
「張り紙……かな」
両方気になっているけれど、なんとなく本人のことを気になっているとは言いにくくて、張り紙が気になっている、と答えてしまった。
「そうだよねぇ、これが気にかかるってことは、潤和さんも相当のフシギ好きだよね」
「フシギ?」
聞き慣れない言葉に、今度は私が首を傾げる。
「そう。僕が勝手にそう呼んでるだけなんだけど……あのさ、僕の名字、城崎って書いて『キノサキ』って読むんだけど、『城之崎』って書かないとそう読めないんだよね。城崎って書いて本当に『シロサキ』って人もいるから、注意が必要だけど」
最初の自己紹介で城崎くんが「きのさきです」と名乗るまでのほんの少しの間、「しろさき」と読んでしまっていたことは秘密だ。
「昔は間の『之』の字もちゃんと書いてたらしいんだけど、今はなくなってるの。潤和さんの名前だって、ジュンナなのにジュンワって読み間違えられることが多いんじゃないの?」
「確かに……」
私は城崎くんみたいに自分の名字がどうしてこんな読み方なのか知らないけれど、よく読み間違いをされる。
でも、いつも一緒にいたナナちゃんの名字なんて五百の蔵って書いて『いおろぎ』だから、その珍しさに比べると自分のことなんて小さいことのように思っていた。
「そういう、当たり前に隠されていることとか、いつもの生活での謎をね、考えるのが好きなんだ」
「それが、フシギ?」
「そう。あんまり人には言えないんだけどね」
「じゃあどうして私に話してくれたの?」
「えっ?」
それまで流れるように喋っていた城崎くんの口が突然閉じてしまった。
長い前髪を指先で捻りながら「そうだなぁ……」と呟いて、城崎くんは言った。
「たぶん、潤和さんがおとなりさんだから……かな?」
「えっ!? そうなの!?」
初耳だ。
あわてておとなりさんの表札を確認する。そこには確かに『城崎』とあった。
「ぜ……ぜんぜん気がつかなかった……」
「そりゃ、今までずっと空き屋だったからね。いつも同じだったものの変化なんて、気がつかないものだよ」
「そっか……。で、でも今までだって、登校するときも下校するときも城崎君の姿は見なかったよ?」
「それは、僕が毎日朝早くにでて日が暮れてから帰っていたからかな」
「なんで? 習い事でもしてるの?」
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