第一話 迷い犬がおおすぎる フシギ編

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 クラスの中では放課後に習い事をしている子がたくさんいる。  塾だったり、ピアノ、空手、習字、水泳、テニス、ダンス、英会話……色々とそんな話を聞く。  私はなにも習っていない。  中学生になったら塾に行きなさい、って言われてるけど、気は進まないなぁ。  でも、勉強はあんまり得意じゃないから、行った方がいいんだろうけど。  私には幼稚園に通う双子の妹がいる。  お母さんたちはその子のお世話で忙しそうだし、帰りが遅くなると心配だ、と言われちゃうとなかなか自分からは「習い事をしたい」とは言いにくかった。  べつに、特別に興味があることとか得意なこととかがあるわけじゃないから、いいんだけどね。 「いや、なにも習ってないよ。まだ豊実町(とよみちょう)に引っ越してきたばかりだし、あちこち歩き回ってフシギがないかどうか調べているんだ!」  城崎くんは私の方へ身を乗り出しながら言う。  前髪の奥の瞳はキラキラと輝いていて、なんだか私までワクワクが伝わってくるような、そんな気がした。  豊実町には生まれたときからずっと住んでるけど、私にとっては見慣れたことの繰り返しでしかない。  城崎くんの目を通すと、なにか変わって見えるのかな? 「それでね、やっぱり一番気になるのはこの張り紙だよね」 「これ?」  それは、さっきまでナナちゃんとも話していた『迷い犬』の張り紙だった。  書いてあることはほとんど同じなのに、一つだけ違うことがある。 「あれ……? シロちゃんなのに、白くないね」  貼り紙の中の『迷い犬』は、白い体のシロちゃんだったはずだ。  年齢は五歳のままだけど、一緒に書かれている犬の絵は茶色と黒のシマシマ模様に塗られている。 「それだけじゃないよ。この貼り紙はね、日に日に増えているんだ。最初は学校の周りだけだったのに、今じゃ歩いて30分の僕たちの家の前まで到達している」 「飼い主さんが一生懸命探しているのかな?」 「それなら、どうして絵なんだろうね? 写真の方がわかりやすいのに」 「ナナちゃんも同じことを言ってたなぁ」 「隣のクラスの五百蔵さんのこと?」 「そうだよ。よく知ってるね」 「話したことはないけど、同じ学年の子の名前ぐらいはその日のうちに覚えたよ」  ナナちゃんの名字は珍しいから、それで早く覚えたというのならわかるけど、三クラスしかないとはいえ私の学年は100人ぐらい居る。それをたった一日で……?  「すごいね、記憶力が良いんだ」 「へっ?」  純粋に驚いたのに、城崎くんは誉められたことにも気がついていない様子でまた貼り紙に目を向けた。 「そんなことより、この貼り紙の絵はね、全部模様が違うんだよ」
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