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「違う……?」
「学校の前の『迷い犬』は白い犬だったでしょ? でも僕らの家の前はシマシマ。そこまでに黒、水玉、赤、青、緑……とってもカラフルだよね。でも名前は全部シロ。この辺りは同じ名前の犬が迷子になりやすいフシギな場所なのかな?」
「そんなこと……」
ない、と思う。
貼り紙があるなぁ、とは思っていたけれど、模様まで気にしたことはなかった。
白、黒、シマシマはわかるけど、赤とか青とか犬としてはあり得ない色なのは全くわからない。
「よく見ると、白い犬の絵はみんな同じかたちだね」
左向きの犬の絵は、どの貼り紙でも同じだった。
手書きじゃなくて、なにかのキャラクターをコピーして貼り付けているような感じ。
有名なキャラクターじゃなくて、ネットのフリー素材っていうのかな?
こんなとき、パソコンに強いナナちゃんがいてくれたらなぁ……。
「模様だけが違う。上からクレヨンみたいな筆記具で塗られてるね。塗り絵とでも間違えたのかな?」
「えぇ……? だってこんな、迷い犬を探すための貼り紙を塗り絵だなんて勘違いしないよぉ」
「そうだね。普通はね。潤和さんの言うとおり。でも、普通じゃないから『フシギ』なんだよ。ねっ! 気になるよね!」
城崎くんの『フシギ』への熱意は相当強いようだ。
教室で見ていた姿とはずいぶん違う。
「でも、意外だったなぁ……」
「えっ? なにが?」
「まさか潤和さんもフシギ好きだったなんてね。教室ではいっつも大人しくて目立たないからさ」
き……。
「クラスメイトの後ろをついていくことが多いし、あんまりまだ興味があることとかないんだろう、って」
城崎くんには言われたくないかな!
キミだって、クラスではぜんぜん喋らないしジッと座ってるだけのくせに!
「………」
でも、そんな心の中の声は表には出てこない。
私は言いたいことをグッと飲み込んで、苦笑いに変えた。
「でも困ってる人を放っておけないみたいだし、悪い人じゃないなぁって思ってたんだけど、フシギ好き仲間とあってはもう間違いないよね」
「ま、間違い……?」
「そう! 潤和紫亜さん! キミは間違いなく良い人だ!」
城崎くんは私の両手を持ってブンブンと上下に振り回した。
私と同じぐらいの身長だけど、やっぱり男の子なのか城崎くんの力は強い。
ちょっとゴツゴツした手で握られて、小さく「いたた……」と声が出てしまった。
「あっ、ゴメン、痛かった?」
「ううん、大丈夫……。でもビックリしたから、いきなりはやめて欲しいかな……」
男の子の友達といえば幼なじみの飾磨くんしかいないし、彼ともこんなふうに触ったり触れたりしたのは幼稚園のとき以来ない。
「ゴメンね、次から気をつけます」
城崎くんはもう一度謝ってくれた。
そして、深々と頭を下げる。
「あっ、いいよいいよ。そんなに気にしないで。驚いただけだもん」
「ホント!? 許してくれる!?」
「うん、許すよ。そんな大げさな……」
「じゃあっ! 僕と友達になってくれる!?」
「う……ん……?」
色々と予想外続きの城崎君の言葉に混乱してきた私は、反射的に頷いて彼の「友達になってくれる!?」という問いかけを受け入れてしまった。
新しいクラスになかなか馴染めない今、『友達』が増えるのは良いことだけど……できれば女の子で、もっと普通な子が良かったかな……なんて、頭の隅っこの方でほんのちょっとだけ考える。
でも……。
「やったぁ! ありがとう!! やっぱり、フシギ好きは良い人ばかりだなぁ!」
満面の笑みではしゃぐ城崎君の姿を見ていると、そんな隅っこの気持ちなんてどこか遠いところに吹き飛んでしまった。
こうして、平凡な私とフシギ好きな城崎君は友達?になったのでした。
……そういえば、男の子の友達って久しぶりにできたかもしれない。
幼馴染の飾磨くん以来かも。
でも、飾磨くんは最近なんだか無表情で冷たいから、男の子だけどニコニコよく笑う城崎くんとは全然違う。
私は、いつもと同じ毎日のなかに突然現れたフシギくんの存在に、その時ちょっとだけワクワクしていた。
……仲良くなれたらいいなぁ。
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