友一郎 ①

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友一郎 ①

 すぐそばで波がよせてはかえす。魚の強烈な生臭さが鼻をつき、胸が悪くなった。友一郎(ゆういちろう)は半覚醒状態のまま上半身をひねり、砂に両手をついてせき込んだ。 「大丈夫か?」  大きな手が背中をさする。なんだか奇妙だなと友一郎は思った。ひとの手を大きいと感じることなど、いつ以来だろうか。 「ごめん、ごめん。あんなに驚かれるとは思わなかったんだ」  そう謝る声はどこかふざけた調子で、そして大きな手には不つり合いな高さだった。やや高音。なのに、深みのある声だ。  よつん這いになった膝頭を波が洗う。友一郎は彼を覗きこんでくる顔を見上げた。  大翔(ひろと)、ではない。おぼれる直前、友一郎はたしかにその顔に亡き親友の面影を見たのだが、いま目の前にあるのは、奇抜なメイクをほどこしたような模様のある顔だ。
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