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起きていることを周や他の人魚たちに悟られないよう、潜はそっと周の胸板にほっぺたを下ろした。周のゆっくりとした鼓動が聴こえてくる。昼間は不馴れな集団行動で疲れたのに、眠気はやってこない。
『これだったら、一人で泳ぎながら片目を交互につぶって眠った方がよく眠れるよ』
潜は片目だけをつぶった。両目を閉じるとまた悪い夢を見そうだった。周じゃなくて友一郎が人魚だったらよかったのに、と潜は想像した。もしも友一郎が人魚だったら、潜は友一郎と番になって、毎日手を繋いで泳ぐし、夜は抱き合って眠るのだ。
『そうだ、明日は友一郎、朝は伊達くんの手伝いに来ないって言ってた』
明日は友一郎は朝からフェリーに乗って、半島の街に出かけるらしい。
『また、死んだお友達に逢いに行くのかな』
友一郎の心の中には、いつもその人がいるらしい。その人がどんな人だったのか、友一郎は潜に何も話してはくれない。潜が聞いても友一郎はただ少し頬笑むだけだ。やっぱり友一郎は人間だから、人間が相手の方がいいのだろうか。
『オレには、友一郎しかいないのに』
ふいに、大きな手のひらが、潜の髪をかき回した。
「眠れぬのか?」
周が首を上げて潜を見つめた。潜はむすっと頬を膨らませて周をにらみ返した。周に掴まっていた手をはなして、一人で水の中に沈んでしまおうか。と、思ったところ、周の片腕が潜の背中をぎゅっと締め付けた。
「まだ見張りの交代までに時間がある。少し二人きりになろう」
周はそうささやくと、すぐ横に浮いていた側近の二人に慈を預け、潜を腕の中に抱きしめて水中にもぐった。周の泳ぎは速く、あっという間に群れの外へ出てしまった。海面に顔を上げたときには、人魚たちの群れどころか半島の先までもが遠く離れたところにあった。
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