潜 ①

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 軽くジャンプして勢いをつけ、潜は水中に突入した。数メートル先までしか見通せない濁った水の中を、頭を下にしてまっすぐ降りる。そして柔らかな泥のつもった水底を手でタッチして、方向転換し、水面を見上げた。お日さまの光をうけてキラキラ輝く水面に、細長くて黒い影が浮かんでいる。友一郎の舟だ。潜と水面のあいだを、小魚の群れが横切る。もやもやとして見透しの悪い水中で、魚たちはまるでガラス片のように輝いている。  潜がぷはっと水面に顔を出すと、友一郎は初めて会ったときのような驚きかたはせずに、ちょっとだけ潜の方を見てから、またすぐ顔を進行方向へ戻した。まるで目の前をありふれた魚が一匹通りすがっただけの時のサメのように、すぐに興味をなくしたようだ。だが、 「ねぇ、友一郎。今日はあのシャンシャン鳴るやつは持ってきてないの?」  潜が聞くと、友一郎はすぐ顔を潜の方へ向け、 「ラジオのことか?」  と、問いでこたえた。 「そう、そのラジオ。今日はどうして持ってないの?」 「お前だけで充分だから、にぎやかなのは」
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