25人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
そして友一郎は片方の唇の端を少しだけ上げた。笑っているのかもしれない。潜もへへっと笑った。ところが、友一郎はすぐに唇をもとに戻し、舟から身を乗り出すようにして潜を見た。
「こっちに来てみな」
手招きされて、潜は舟に近づいて縁につかまった。と、
「わっ、何するんだよ!」
友一郎が親指を潜の目頭にめり込ませようとするので、潜は思わず半開きだった内側のまぶたを目尻までぴったり閉じた。
「おぉ」
半透明な内側のまぶたを通して見える友一郎の顔は、顎ひげのありかがわからないほどに、ぼんやりとしている。
「なんだ。猫と同じか」
船着き場をとことこ歩く胴長で甘ったるい声色で鳴く生き物とじぶんの、どこが同じなのだろう。友一郎の手が潜のほっぺたをひとなでして、遠ざかる。潜は内側のまぶたを開いて友一郎を見た。彼はいまは唇の両端をあげている。潜もへへっと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!