潜 ⑪

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「なんで!?」 「ほんと馬鹿だなぁ。さっき言っただろうが。半端もんには本来メスに種をつける権利はねぇんだってよぉ。だから、あいつらもまた、純血に遠慮して次に譲るんだよ。あいつらの次は(ひとし)さんだ。等さんは幹部のなかでも位が上の方だから、メスに種をつけるのにふさわしい」  まるでじぶんが「ふさわしい」と言われたかのように、護衛は誇らしげに鼻から息を吐き、そして続けた。  「というわけで、お前はびりっけつだ。でもやれるだけいいじゃねぇかよ。それでも不満だっていうのかい? ならやらなくたっていいんだぜ? 周さんだったらやらないだろうしな」 「それも周の思惑だっていうのか? オレが遠慮して一番最後になって、順番が回ってきても辞退するって、オレにそうしろって暗に強制しているのか?」 「あ? 周さんだったらやらねえっていうのは、単に周さんは喪に服している最中だからさ。今日みたいな事情がなくたって、あの人はメス狩りの獲物はみんな下のもんにくれてやってるよ。お前も周さんの番なら、そこんとこ周さんに合わせるべきなんだろうが、周さんはそうしろとは言わなかった。やっぱ番には甘いんだな」  潜は言いかえすのをあきらめて、口をつぐんだ。ややこしく、よくわからない話だが、じぶんの思惑は完全に外れたことだけはわかった。自分が狩りで一番になって女の子を手に入れれば、ひと目につかないところに彼女を連れ込んで種をつけるふりをして、こっそり逃がすことができると思った。だが、女の子を得た四人のうち、潜は実質一番最後のようなので、それはかなわない。   こんなことなら助けなければよかったと、後悔してももう遅い。よそ者に(さら)われてしまったとしても彼女は同じ目にあわされたのかもしれないが、少なくともそれは潜のせいではなかったし、潜の目の前で行われるわけでもなかった。もしかしたら逃げる機会もあったかもしれない。だがいま彼女が目覚めたところで、逃げる隙はない。周がつけた護衛がまわりをすっかり固めているからだ。 『オレのせいだ……』  謝っても謝りきれない。女の子が男の人魚、とくに純血の男の人魚をとても嫌っているのを潜はよく知っていて、それなのに純血の人魚のものにするために、潜は彼女を連れてきてしまった。
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