友一郎 ②

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友一郎 ②

 会えばずっと一人で喋っているし、話のネタが尽きればこんどはずっと一人で歌っている。(かづき)がいれば、ひまつぶしにラジオなんか要らなかった。どういうわけか、ずいぶんなつかれてしまった。巡視船の奴らに見とがめられなければいいが、と思いつつ、友一郎(ゆういちろう)はカヤックを肩にかついで、ひとり家路を歩いた。  先ほどは肝が冷えた。いつものように潜と砂浜に戻ったら、見知らぬ人間が待ち構えていたからだ。友一郎は一瞬、巡視船から派遣されて来たのだろうかと思って緊張した。だが、その男は巡視船とは無関係で、潜の古い知り合いだった。男は獣医で、いまは半島の水族館にいるらしい。常勤ではなく、人魚の調査のために一時的に半島に逗留しているそうだ。男は動物位置情報システムで潜がこの湾内に流れてきたのを知り、顔を見にきたというわけだ。  誰にも会わずに友一郎は家に着いた。カヤックを軽く水洗いして、ガレージにつるした。玄関先では、猫が植木鉢に背中をこすりつけていた。
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