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「よう、タマじろう」
友一郎がしゃがんで手を差しのべると、タマじろうはニャオンと一声鳴いて近づいてきて、友一郎の手のひらの中に頭をすっぽり埋めた。友一郎が手を動かさなくても、じぶんから頭をすりつけてくる。
存分にすりすりして顔を上げたタマじろうの目頭のきわに、薄い膜が張っていた。さっきの潜と同じだ。上下二つのまぶたの内側の、もう一枚のまぶた。潜はそれを海中でゴーグルのように使うらしい。内側のまぶたを閉じて少し白く曇った目で見つめられると、種族の違いというものを改めて思い知らされるようだ。
手のひらに、猫の毛とも人肌とも全然違う人魚の肌の感触を、思い出した。
『ありがとう。オレを守ろうとしてくれたんでしょ』
別れぎわに潜は言った。とんだ買いかぶりだと友一郎は思った。ただ、肩に舟をかついでいることを忘れて一歩前に踏み出したら、相手が尻もちをつくほど驚いた。それだけのことだ。
唇の両端をくるんと丸めて、イルカのように屈託なく笑う潜を見たとき、彼は胸にチクリと疼きを感じた。やはり、潜は大翔に似ている。
「そこで待ってな。なんか食うものもってきてやるよ」
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