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友一郎は腰を上げた。タマじろうは甘い声で鳴いて彼の脛にまとわりついた。
夕飯は、早起きな祖父に合わせてまだ日のあるうちに摂る。祖父は手酌でビールを飲みながら、珍しく口を開いた。
「人魚が島に来たな」
友一郎はギクリとした。
「若い衆になついて、港によく顔をだすわ。若い奴らには、可愛がるのはいいが巡視船に目ぇつけられないよう気を付けろよって言った」
そう言うと、祖父はぐいっとグラスをあおり、刺身をつまみはじめた。祖父は友一郎が人魚と会っていることを知らないはずだ。常日ごろ、友一郎が昼間どこで何をしているのか、祖父は聞きもしないのだから。
だが、いつもは食事中に一切口を利かない祖父が、あえてそんなことを言うのは、孫への遠回しの警告のようにも友一郎には思えた。
お前は漁師にならないのだから、せめて漁師の仕事の邪魔にはなるな。祖父の言いたいことはそういうことなのかもしれないと、友一郎は考えた。
「ごちそうさま」
友一郎は箸を置き、とっとと自分の食器を片付け、子供時代からの自分の部屋に引き上げた。
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