友一郎 ②

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 お礼のメッセージを送らなければ、と友一郎は思った。友一郎の祖父に大翔の訃報を伝えてくれた同級生に対してだ。彼女は高校時代に大翔に片想いをしていたそうで、それで大翔が東京でどのように暮らし、どうして死を選んだのか、聞きたがった。友一郎には答えられることが何もない。だから彼女と連絡を取るのは気が重いのだ。  だいいち、大翔を中心としてつるんでいたグループに友一郎と彼女は共に属していたというのに、彼女が大翔に想いを寄せているなど、友一郎は気づきもしなかった。きっと誰も気づかなかっただろう。それほどに厳重に秘められた恋を、今頃になって追憶する権利が彼女にはあって、だが仲間として協力すべき友一郎には、何も力になれることがない。そして彼には、長い年月を経て今だから言えると話せること自体が、羨ましいと思える。  かつては大翔と歩いた道をひとりきりで降りていて、高校時代の思い出よりも潜のお喋りが恋しくなった。未来への夢や希望に満ちた話よりも、今は潜のいきあたりばったりな話を聴きたい。友一郎はそう思った。
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