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「ええ。人魚も脱水症になることがあるんです。周りを海水に囲まれて暮らしているのに、意外だと思うでしょう? でも人魚とて陸上の人間と身体の構造は同じ。水分摂取のために海水を飲めば、体内のミネラルバランスを崩してしまいます。塩分の摂りすぎで身体が浮腫んだり、腎臓を傷めたりしてしまうんですね。ですので、人魚は基本的に水を飲みません。水分は、食物から得るのです。つまり魚の身に含まれる水分をですね、摂っているわけです。ですから、少し食べる量が減ると、すぐに脱水症になってしまいます。見たところ、潜くんはちゃんと栄養を摂れていて、体調も悪くなさそうなのですが、血液検査の結果ではですね、ええ、軽度の脱水症なんです」
大きな身振り手振りをまじえて一生懸命に話す伊達くんに、友一郎は驚いたようで、細い目を少し見開き、口をぽかんと開けたまま、こくりと一度うなずいた。うなずいただけで、何も言わない。伊達くんは左右に大きく開いた腕をそのままにして、しばらく微動だにしなかったが、やがて友一郎が何も言わないのにしびれを切らして言った。
「今の数値だともう、食生活の改善だけでは回復は無理なので、積極的にお水を飲んでもらわないといけません」
「え!」
潜は思わず大声を出した。友一郎はそれでも無言をつらぬいている。
「やだぁー、水なんか飲みたくないよぉ」
「じゃあ点滴です。水族館に連れていくとまでは言わないよ。僕らのステイ先に、医療器具はそろっているから。さあ、お水を飲むのと点滴、潜くんはどっちがいいかなー?」
点滴はもっと嫌だった。注射や採血ならすぐに終わるけれど、点滴は針を刺されたまま、長い間じっと我慢していなければならない。
「わかった。水、飲めばいいんでしょ」
「オーケー。じゃあこの水筒をあげよう。氷を沢山入れといたから、キンキンに冷えていて美味しいよ。あと、これはご褒美」
伊達くんは潜の目の前に水筒とイワシをつき出した。潜はしぶしぶ伊達くんから氷水の入った大きな水筒を受け取り、イワシをぺろりとひと呑みにした。
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