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「なんだったんだ」
伊達くんが去ったあと、珍しく友一郎が自分からしゃべった。
「伊達くんはいつもあんな感じだよ。普段はおとなしいけれど、人魚の話をしようとすると急に元気になって、話が止まらなくなるんだ」
「そうなのか。というより……」
「というより、何?」
「いいのか? 俺が色々、お前のこと聞いて」
伊達くんは友一郎相手に、人魚が食べていいものや食べてはいけないものについて、長々と話してから帰ったのだ。
「いいんじゃない? 伊達くんは隙があれば誰にでも人魚の話をするんだから。そのうち友一郎だけじゃなくて徹くん達にも同じことを話すよ。もしかしたらもう話しているかもしれないね」
「いや、そうじゃなく……、まぁいい」
と言って、友一郎は下を向いてしまった。潜はぺたぺたと数歩歩いて、友一郎の隣に座った。
「今日もまた寝不足なの?」
「昨日ほどじゃない」
彼はそう言うが、潜にはまだだいぶ疲れているように見えた。潜は友一郎の顔をじっと見た。昨日はツルツルだった下顎の先に、短い棘のような毛が生えていて、その部分の肌が潜の腹のいちばん色が薄いところのような青っぽい灰色になっていた。潜は友一郎の顎に手を伸ばした。手のひらを上に向けて、指の腹でそっとなでてみる。
「ざらざらだぁ」
潜が笑うと、友一郎は潜の指から逃れるように顎を上げた。
「いいから、水飲めよ」
と、友一郎は砂の上から伊達くんのくれた水筒を取り上げ、潜に押し付けた。眉間に深い皺が寄っている。なんだか機嫌が悪そうだ。
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