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左手にまわりこんで自分の島の砂浜を目指そうとした時、数十メートル離れた海面に、ひょっこりと頭がつきでてきた。この間の人魚だ。「おーい」と友一郎にむかって大きく手をふっている。先日、まるで船幽霊のような現れかたをして友一郎のカヤックを転覆させたのを人魚は反省し、漕ぎ手を驚かせないよう努めているようだった。
友一郎が片手をあげると、人魚は平泳ぎでいそいそと近づいてきた。友一郎はパドルを逆回転させて舟を止めた。
「どこに行くの?」
「島に帰るんだ」
友一郎はこたえると、パドリングを再開した。舳を砂浜にむけ、ゆっくりと漕いでいく。そのあいだ、人魚はカヤックの横を間隔を保ってついてきた。友一郎がふと人魚の方を見れば、人魚は友一郎の目をじっと見、にこっと笑った。少し漕ぐと視線を感じ、顔を見合せれば、友一郎はひとつも表情を変えないというのに、人魚はまるで昔からの友達に笑いかけるように笑った。
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