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潜 ①
ご多分にもれず、友一郎も潜が自分の名前を書いてみせると、驚いて目を見開いた。だが、反応はたったそれだけで、「へぇ!」とも「すごいね!」とも彼は言わなかった。潜が首をかたむけて友一郎の顔を覗きこみ、にこっと笑ってみせれば、友一郎はびくりとあとずさった。よっぽど怖がりなのだろう。数日前、ふざけて驚かせてみたら、まさに死にそうになったほどなのだ。
「友一郎?」
「や、すまない」
何がすまないのだろう。悪いことをしてしまったのは潜のほうだ。
謝らなきゃいけないのはこっち、と思うのに、潜はつい笑った。「友達がいちばんの男」という意味の名前なのに、友一郎には友達なんか一人もいなさそうに見えるからだ。じっさい、沖で若い漁師たちが漁にいそしんでいる間、友一郎は島の陰に隠れるようにひっそりと、ひとりで舟を漕いでいた。
これは、自分が最初の友達になってやらなければ。と、潜は友一郎にむかって手を差し出した。
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