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「ねえ、オレたち、友達になろうよ」
潜は出来うるかぎり最高の笑顔をして言った。友一郎はすこしの間、誰かに見られていないかどうか確認するように左右を見回し、右手をハーフパンツに二、三度こすりつけてから、おずおずと差し出した。だが、潜が握ろうとすると、その手はスッとひっこんだ。
「巡視船、が、見てるかも」
と友一郎は言いわけした。
「巡視船? 海保のこと?」
海保なら、潜が手をふればふりかえしてくれる。人魚に対して親切かどうかはわからないが、少なくとも干渉はしてこない。
「いや。海保のやつじゃなくて、いるんだ、半島の先のほうに」
そういえば、その辺りに大きな船がうろうろしているのを、潜も見た。事情はわからないけれど、ここでは人魚と人間が仲良くするのはご法度なのだろうか。でも、と潜は思った。港の漁師達は潜と普通に話してくれるし、今朝なんか、朝ごはんのお刺身を分けてくれたじゃないか。
さては、友一郎は個人的に、人魚とかかわるのが嫌なんだな。潜は強引に友一郎の手を握り、ぶんぶんと振った。
「よろしくね、友一郎」
偏見なんか、ちょっと付き合えばすぐにどこかへふっとんでいってしまうのだから。
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