潜 ①

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「ねえ、友一郎(ゆういちろう)は泳げないの?」 「泳げなくはない」 「じゃあ、なんで泳がないの?」 「疑われたくないから」 「泳ぐと疑われるの?」 「安心しろ、お前は大丈夫だ」 「友一郎はなんでみんなと漁をしないの?」 「漁師じゃないから」 「なんで毎朝、砂浜のゴミを拾ってるの?」 「罪ほろぼし」  (かづき)はウーンとうなった。自分ばかり喋りつづけるのは悪いかなと思って、友一郎に話してもらおうとしたのだが、あまりにも友一郎が話さないので、結局、潜が一方的に問いつめるような形になってしまった。それに、話の風向きが少し不穏だ。罪ほろぼしとは。  ぱしゃん、ぱしゃんと波が友一郎の舟の脇腹を打つ。友一郎はゆっくりとパドルを回しつづけながら、潜をちらりと見た。 「大したことじゃない」  そう言って、彼は進行方向に視線をもどした。 「漁師をしない、かわりだ」  潜はパドルに当たらない範囲で近づけるだけ近づいて、友一郎の横顔をじっと見つめた。 「どうして漁師にならないの?」  という問いかけは友一郎の耳に入らなかったのか、友一郎は真っ直ぐ前を向いて黙々と舟を漕ぎつづけた。
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