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「ねえ、友一郎は泳げないの?」
「泳げなくはない」
「じゃあ、なんで泳がないの?」
「疑われたくないから」
「泳ぐと疑われるの?」
「安心しろ、お前は大丈夫だ」
「友一郎はなんでみんなと漁をしないの?」
「漁師じゃないから」
「なんで毎朝、砂浜のゴミを拾ってるの?」
「罪ほろぼし」
潜はウーンとうなった。自分ばかり喋りつづけるのは悪いかなと思って、友一郎に話してもらおうとしたのだが、あまりにも友一郎が話さないので、結局、潜が一方的に問いつめるような形になってしまった。それに、話の風向きが少し不穏だ。罪ほろぼしとは。
ぱしゃん、ぱしゃんと波が友一郎の舟の脇腹を打つ。友一郎はゆっくりとパドルを回しつづけながら、潜をちらりと見た。
「大したことじゃない」
そう言って、彼は進行方向に視線をもどした。
「漁師をしない、かわりだ」
潜はパドルに当たらない範囲で近づけるだけ近づいて、友一郎の横顔をじっと見つめた。
「どうして漁師にならないの?」
という問いかけは友一郎の耳に入らなかったのか、友一郎は真っ直ぐ前を向いて黙々と舟を漕ぎつづけた。
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