友一郎 ⑫

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 現実の世界は、夢の中ほど雨はふらなかったようだ。友一朗が目覚めたときはすでに小雨になっていた。友一朗は眠ったときと同じかっこうで畳の上に寝ており、胸の上にはタマじろうが、まるで人間のように両前足を身体の脇に伸ばし、仰向けに寝ていた。タマじろうを起こさないようにそっと抱きかかえ、友一郎は体を起こした。幸い、全開にしていた窓からは雨は吹き込んでいない。  寝ている間に、伊達(だて)からメッセージが届いていた。  “夕方からの会合には君も参加するように。”  何のことだろうと訝しんでいると、祖父が帰ってきた。 「暇そうだな」  祖父は友一郎を見るなり言った。祖父が友一郎に対して何か苦言めいたことを言うのは珍しいことだった。嫌味を言われてもしかたのない身の上なので、友一朗は黙ってやり過ごそうとした。祖父はふんと鼻を鳴らした。 「俺も暇だがな。明日から休漁だ」 「いつまで?」 「さぁな」  祖父は茶の間にどっかりと腰を下ろすと、テーブルからリモコンを取り上げ、テレビを点けた。 「祖父さん、飯は?」 「要らん。どうせまた出かける」  翌日が休漁日でも、祖父は飲みなどに出かけることはない。珍しいから、友一朗がどこへ行くのかと聞くと、祖父は「住民センター」とこたえた。住民センターは島の真ん中の、廃校になった小学校にある。そこで今夜、会合があるという。伊達のメッセージの「会合」というのはまさにそれだった。  島民のほとんどが会合に集まる。友一朗に対して友好的な移住者集団だけならまだしも、昔からこの土地で漁師を営んでいる人々も一緒だ。友一朗は気が進まなかったが、昼間のサメ騒動が気になるのもあって、出かけることにした。
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