シュタイナー戦記 〜失職魔術師、再起の冒険〜

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「ということで、補助金はもちろん、君への定額報酬はもう出せない。」 外では朝から降り続いた大雨の調べが延々と聞こえており、稀に雷鳴のノイズがそこへと割り込んでくる。 「つまり、僕にパーティメンバーを抜けろと?」 「率直にいえばそういう事だ。」 雷が鳴り、暗くて見えなかった全員の顔が一瞬曇った。時間を置いてようやく出た言葉は、こちらに来てからあまりだした事の無い、心の底からの本音であった。 「全く科学技術というものは……異世界であっても人の職業を奪うものなのだな……」 それまで生死を共にしてきた仲間(とも)たちは皆当然今の発言の意味は分からないだろう。皆こちらに目を合わせないように暗い顔で床や壁を見つめている______口を半開きにした勇者を除いては。無言の時間が続いたが、クビを告げた王国の役人もパーティメンバーも、退出を促そうとも返事のいかんを問おうともしなかった。衝撃が和らいできた頃、ようやく足を出入り口の方へと向け、濃い茶色の重々しい扉を開いた。頬へ無数の水滴が滴り落ち、灰色の空を見上げた途端景色も音も消え、再び現実へと戻された。 度々見る自分がクビになった時の夢は、常にここで終わる。夢だというのに、他とは違って光景は生々しく鮮烈に記憶に刻まれていた。ため息をついて起き上がると、外は既に明るくなり始めていた。ベッドから這い出ると準備を済ませ、勤務先である階段を昇った先へと歩いた。
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