妄想アイデンティティー

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ひらひらと手を振って、去って行く5人組を見つめた。もはや名前も曖昧なパリピ集団だ。なぜ初めて出逢った時、私はあの集団に入れるなんて思ったのだろう。本当にクソだ。消えたい。消したい。最低の歴史だ。黒歴史を更新し続けている自分に笑える。 自己主張の煩い集団だった。初めて声をかけられた時、自分の大学デビューがうまく行ったのだと浮かれた。きっとこのままいけば、准くんと釣り合う女の子になれるんだと思った。歯車が狂ったのは、2週間後だった。 パリピ集団のボス猿が不意に言い出したのがきっかけだった。「そぉだ、うち今から彼氏とデートなんだぁ」と妙に間延びした言葉で呟いた女に「じゃあ、代返しておこうか」なんて言った良心を殺したい。待ってましたとばかりに全員に代返を押し付けられて、今となっては私が全員の出席係を担っている。 私が毎日出席して丁寧に書いたノートであいつらは楽に単位を修得するのだ。ばかみたいだ。そうして要領の良いやつが、なぜか私以上の評定を取ったりする。地獄に落ちればいいのに。 ぽきりとシャーペンの芯が折れる。それに意識を取り戻して、前を見た。相変わらず涼しそうな頭で一生懸命に板書を書いている教授が見えて、視線を下におろした。
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