妄想アイデンティティー

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このクソジジイも、私の代返に気付いてあいつらに天罰を下せばいいのに。私が裏切ったとばれてしまうのが嫌だ。 空いた手で携帯をポケットから出した。現実の中に非現実がいる。スマホの中でいつでも出逢える精神安定剤だ。昨日見た准くんの投稿をもう一度見つめて、ため息を落とした。何度見ても素敵だ。 准くんが同じ大学の生徒だったとしたら、どんなに楽しいだろう。きっと怠惰な生徒だろうから、たまたま隣に座った女の子がずっと眠りこけている准くんを心配してノートを置いて行ってあげるのだ。そうして目が醒めた准くんは、次の授業でその子を探すために同じ席に座る。そうして私と准くんが付き合い始める。夢みたいなシナリオだ。4人掛けの一番左端の席に座りながら、准くんが一番右端に座ってくれるのを待つ。来るわけがない妄想がリアルに溶けだしている。現実と夢が交り合った世界で、誰かが右側の席に着いた。 控えめに横を見れば、同じ学科の男子が耳からイヤホンを引き抜いたところだった。途端にシラケて携帯に視線が戻る。 「それ、代返?」 特に関わり合う気もなく教授の薄い頭を見ていれば、横から声がかかる。ついさっき准くんの幻として座った男だ。ちらりと横を見れば、思い切り目が合った。その顔を知っている。何せ彼は学科でも有名な方の男の子だ。
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