妄想アイデンティティー

12/22

574人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
「うーん、でも友達だから」 思ってもいない言葉を吐いて、目の前の男が眉を顰めるのを見た。パリピは露骨な表現の自由を有している。平民にはないものだから、どんなに不快に感じたとしても知らないふりをしなければならない。 「そんなん友達でもなんでもねえだろ」 自分が一番理解していることを他人に指摘されるのは本当に面倒だ。知ってるっつうのと心の奥底でぼやくそれさえも奥歯ですり潰して曖昧に笑った。 どうしてこの男にいきなり絡まれているのかわからない。そもそもお前はそっち側の人間じゃん。 曖昧に笑った私を見たその男は、盛大にため息を吐いてから、とうとう無言になった。そのままたいして書いてもいないノートを睨みつけている。 たまにいるのだ。自分とは違った可哀想な人種を構って、承認欲求を満たそうとするクソパリピ。早く滅びないでしょうか。何度願っても遠い。 ハゲが私と東の会話に気付いたのか、こちらをちらちら見ている。ほぼ誰も聞いていない授業だと自負しているくせに、それでも誰かが会話しているのを見ると許せなくなるのが人間だ。 極力目立たないように、というか、生まれてそのままで目立たない私は、先生にちらちらとみられる経験もほとんどしてこなかった。だから、こうして悪目立ちしていることを理解すると、たまらなく嫌な汗が出た。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

574人が本棚に入れています
本棚に追加