妄想アイデンティティー

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あの集団の中で唯一まともに会話ができた人だった。パリピ集団の中にいてもどこか堅実的で、地に足のついた学生だった。 誰にでも分け隔てなく話しかけるし、驕りや傲慢さがない。見ているだけで眩しくて死にそうになるような完成した人間だ。 近くにいるだけで自分が凄い人間になった様な気にさせてくれる人だった。だから悪かった。 リコはあっさりと大学に来なくなった。その事実に気付いたのは、一年前の期末のころだ。顔を見る機会が少なくなっているとは思っていたが、本当に大学に来ていないとは知らなかった。 何せ私はパリピに合わせることで必死だ。 文字通りに死ぬ思いをしてしがみついていた。だから、正直リコに何があったのかなんてどうでも良かったし、大学に来ないやつの自己問題だと思っていた。 リコは母子家庭で、金銭的にかなり無理をして大学に入学したらしい。その話をしてきたのは、やはり橋谷葵だった。 「リコ、家超貧乏でやばいらしいよ。今ソープやってやっと生きてるレベルらしい」 耳打ちするように呟いた言葉に衝撃を受けたのは私だけだったらしい。パリピには日常茶飯事なのだと誤った理解をして、「やばぁい」と笑っている女たちに同調した。リコは大学を休学している。その後、退学になったのかどうかはわからないままだ。
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