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しっかりと私の肩を掴んでいる相手を見ようと振り返って、また無感情な顔に視線がぶつかった。
迫力のある顔だ。華やかで、見飽きなさそうな顔。その顔に無感情に見つめられると、何よりも畏れ多さや恐怖や劣等感を覚えずに居られない。
「出席票、アイツらのやつ出さなくていいだろ」
「え……、ああ、葵ちゃんたちのこと?」
「他に誰がいんだよ」
真剣な瞳に射抜かれて言葉を失う。
ついさっきにも受けた指摘をもう一度受ける。だから何だ。
正しいことを正しい通りにやるのが正解とは限らない。パリピの世界なら正しいと思うことをそのまま正しいことに出来るのかもしれないが、私は残念ながらそういう星のもとには生まれなかった。東とは違う。
「みんな忙しいから仕方ないよ。私暇だし」
暇なわけがない。あのクソパリピなんかよりよっぽど忙しい。毎日毎時間毎秒私は准くんを見つめていなければならない。それには大学の講義なんて邪魔だし、友達付き合いは無駄でしかない。
現実が邪魔だ。いらないし、必要ない。
今私が保有している現実は、私にとってのリアルじゃないのだ。
軽率に嘘を吐いた私を東が鼻で笑った。心底馬鹿にしたような音だった。どうしてたいした会話もしたことのない男にこんな態度をされなければならないのかわからない。
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