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可笑しそうに笑っている男がじっと私の頬のあたりを見つめている。近づく指先に何を言うべきなのかもわからなくなって瞼を強く閉じた。
「邪魔」
動悸なのか拍動なのかよくわからない緊張でいよいよ殺されそうになった瞬間、弾かれたように体をのけぞらせた。その拍子にこめかみから汗が伝う。
緊張しすぎだ。落ち着け。自分で言い聞かせても、発汗は止まってくれない。隠すように俯いていればもう一度「そこ邪魔」と吐かれた。
「あ、ごめんなさい」
この男は常に感情をロストしている。たぶんそうだ。赤くなってどうしようもない顔を隠しながらちらりと顔を見あげて、いつもと同じような仏頂面の東と目が合った。
一瞬で反らしたくなるのは、その目があまりにも私を呆れているような色だったからだ。
「祐ー、遅かったじゃん」
「ああ、コンビニ寄ってきた」
「差し入れはー?」
「あるわけねえだろ」
「えー冷たい」
どうしてこの二人が一緒に行動しているのか全く理解できない。性格も正反対だ。パリピの世界には意味不明が溢れている。むしろ意味不明しかないのかもしれない。
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