埋没パーソナリティー

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人は顔じゃない。リコだって誰もが振り返るような美人だったけど、結果的に最後までいい人だった。 私は偏見に満ち溢れていたのだと思う。話してみれば全然いい人だし、心の底から笑える。 「汐見さん何笑ってるのー?」 「え? 笑ってた?」 「うん。すごーい可愛い顔で笑ってたよー。何か良いことあったの?」 「ふふ、良いこと? 何だろ~。なんかあったかなあ」 まさかあなたの事を考えていましたなんて言えない。机に前かがみになるように身を乗り出してこちらに話しかけてきている山本が「そう?」と小首をかしげている。 暴力的な可愛らしさに胸が可笑しくなった。何だこれ。またわけのわからない汗が出そうになって思い切り目を逸らした。 「汐見さん顔赤くなってかわいー」 くすくすと笑う声にますます恥ずかしくなる。ちょっとやめてよなんて呟いて、顔をあげれば、視界いっぱいに真っ新なルーズリーフが映りこんだ。 「講義中」 当たり前のように呟かれた言葉が両耳に刺さる。当たり前に咎めてくる男はついさっきまで伏せていた体を起こしてこちらを見ている。見ているというよりも睨むような視線だった。 刺されたみたいに言葉が続かなくなって、東の後ろから飛んできた、「ごめんごめん」と笑っている山本の声に張りつめた息の根を吐き出した。
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