埋没パーソナリティー

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講義中の雑談をわざわざ咎めてくるような男がもう一度上体を机に擦らせる。その先で、山本が舌をぺろりと出して「怒られちゃった」と笑った。その様さえも可愛らしく映るのだから、造形の美しさは何よりも重要だ。 一通りの会話を終えて体を前に向きなおす。ついさっき触れられそうになった瞬間を思い返して何度もその先を妄想してしまう。 あのまま山本の指先が私に触れて「はい、取れた」と微笑みかけられる。山本はそれに恥じらうように礼を言う私の手を掴んで、あっさりと引き寄せる。そのままいたずらな瞳が私を射抜いて「キスしたい」と呟かれるのだ。 想定して、緩みそうになる顔を抑える。 東さえいなければきっとそうなっていただろう。こう言っては何だけど、山本は私を甚く気に入っている。どこで出会っても「汐見さん」と声をかけてくるし、出会うたびに私の髪を撫でて「綺麗な髪だね」とか、「よしよし」とか言って、微笑みかけてくる。 触れたくて仕方がないみたいな顔をしているから、咎めることもできない。 こうして一緒に講義を受けているのも、一見、東と一緒に行動しているからに見えなくもないが、山本が私に話しかけるための口実を東に頼んだんだと考えれば辻褄が合う。
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