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東のコメントに一瞬で砂漠と化した精神が、過去の拓哉の笑顔に癒される。
こんなクソ男の言葉なんて無視できればいいのに、一つ一つが消えてくれない。消えないままに、喉元に刺さった小骨のような無視できない存在感を発している。
したかったわけでもない、意味すら分からない謝罪を述べた私に、東がまたため息を吐く。なんでため息を吐かれなければならないのかわからない。ため息を吐きたいのはこちらの方だ。
どうして謝ったのにがっかりさせなければいけないのだろう。どうしてこいつはこんなにも私を嫌っているのだろう。何とか当たり障りなくやっているはずなのに、どうして上手くいかないんだろう。
そこそこ上手くやっていると思っていた。
呑み込んで、何も言わなければ何とかなった。そうやって処世術を学んできた。それが通用しない相手と毎日顔を突き合わせる以上にしんどいことはない。
途端に泣きたくなって、指先を強く握る。
耐えるように歯を食いしばって、前を向いた。ここで泣いたとしてもこいつは私を慰めたりしないだろうし、拓哉が見れば、二人の不仲を悲しむだろう。どちらも想像に容易いから、やっぱり私が耐えるしかない。
あと5分で授業が終わる。
終わったら拓哉に話しかけよう。眠る拓哉を写真に収めることはできなかったけれど、また次がある。無理に明るいことばかりを思考して東から思考を逸らす。
不幸は幸福よりも強く印象に残るから、そうしていなければさっきまでの幸福な記憶さえも呆気なく消えてしまうような気がした。根暗だと自覚しているから、それだけは避けたかった。
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