埋没パーソナリティー

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「ただいまー」 我が家の帰宅の文言は無意味な問いかけに似ている。 何度声に出しても絶対に誰からも返事など来ない。そもそも私が帰宅する際に父と母がいた記憶がない。今更寂しいとか悲しいとか思うこともないが、気まぐれに、二人の不在を確かめるようにこの言葉を口に出してみたくなる。 一度も言葉が返ってきたことなんてないけど。 重ったるい身体を引き摺って、二階への階段を上って行く。二階のフロアを使っているのは私だけだから、ここにいる間、私は誰の生活に触れることもない。 講義が終わったら声をかけようと思っていた拓哉は遊びの予定があると言って、すぐに教室から出て行ってしまった。取り残された私と東は特に会話することもなく、気まずい私が足早にその場を去った。 拓哉が誰と遊んでいるのかわからない。当たり前のことだが、それだけで酷い疲労感が体を席巻した。 怠い足でベッドの傍に近寄って、そのままダイヴした。軋む音が切ない。切ないってなんだよ。 またいつもと同じように携帯を掴んで、SNSのアプリをタップした。初期設定のままの自分のアイコンをスルーして、また暗記したローマ字を打ち込む。それが拓哉のアカウント名だと知るのに半日もかからなかった。
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