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陶酔サイバーシティー
「汐見さん、なぁに見てんのー?」
「わ」
後から声をかけられて瞬時に携帯を胸にあてて隠した。疚しいことをしているわけではないが、絶対に知られたくない。振り返ると予想通りに山本拓哉がいた。
今日も完璧にきらきら笑っている。一瞬でもこの男に好かれているとか思いこんだ自分をかき消したい。
山本を見るたびにその気色の悪い思考を思い返して、自己嫌悪で死にたくなる。
「何でもないよ。ちょっとライン返してただけ」
嘘だ。私が見ていたのはラインなんかじゃない。隠すように笑えば、特に疑う様子もなく山本が「そっかー! 勝手に見ようとしてごめんね」と笑った。
見る目が変わっても、山本が良い人であることに変わりはない。いつもと同じように一緒の席に座って、山本の話に相づちを打った。
「あ、祐ー! こっち」
「ああ」
一方この男には相変わらず慣れないままだった。どうせもう山本と付き合う未来なんてないし、こいつと上手くやって行く必要もない。そう思うくせにいまだにこいつの前では委縮してへらへらしてしまう。媚びてへつらうみたいな自分が心底嫌いだ。
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