陶酔サイバーシティー

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「あ、東くん、おはよう……」 引き攣る顔をなんとかして挨拶を打てば、ちらりとこちらを見た東の眉が寄る。そのままうんともすんとも言わない男が私と山本の間の席に座った。 「ちょい、祐ー、いくら汐見さんが可愛いからって照れんなよー」 雰囲気を察知した山本が気を利かせて言う世辞も、私にとってはただ痛いだけだった。そんなことをこの男が思っているわけがない。 山本の言葉に「んなわけあるか」と吐いた男がいつもと同じように机に伏せる。会話終了だった。 居辛さを感じながらも、先に座っていた自分が席をよけるのも可笑しい。どうすることもできずに苦く笑っていれば、今度は後ろから高い声がかかった。 「あー、たくにゃんじゃーん」 「お、あおいじゃん。なに、今日は来たんだ?」 「んー、テスト前だしねぇ。あ、汐見ー! なんか久々ぁ?」 「あ、葵ちゃん、久しぶり……」 わらわらと湧いて出たようなパリピ軍団に目が回る。香水の複合物が鼻の神経を刺激している気がした。 「後ろいーい?」とか言いながら、やつらは当たり前のように後ろの席を占領している。それにまた吐き気を催しながら笑った。
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