妄想アイデンティティー

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恐ろしく整った顔を惜しげもなく晒しているその人は、既にどの投稿も5,000人以上の人間にいいねされている。 彼は人気者だ。きっと、サロンでも大層優しく女の子に接していたに違いない。優しく髪を撫でて、微笑みかけて、「また来てねぇ」と手を振るのだろう。 私もその中の一人になりたい。 あわよくばそこから個人的な関係を持ちたい。更に言うとそのまま恋に落ちて彼の本当の部分に触れたい。 彼は、自分を偽っているのだ。 本当は女の子が好きだったのに、ある事件をきっかけに女の子を好きになれなくなった。准くんは心の傷に苦しみつつも仮面を被ってここまで生きてきた。幼気な女の子を傷つけないように恋愛対象まで偽って、仕事をしている。そんなある日、彼は出会ってしまうのだ。はじめは何のこともない知らない女の子の投稿だった。いつも面倒に感じながら仕方がなくやっているインスタグラムのコーデ投稿についたいいねをざっと見返していた中にいた一人だ。特に意味もなく、何となく可愛いな、と思ってその女の子のページに飛んでみれば、何気ない日常の投稿の中に、笑顔の女の子がいる。フォローしてしまえば周りの人間にばれてしまうから、こっそりと見に行くのが日課になった。毎日の楽しみがその女の子の投稿になって、准くんはついに寝ぼけながら彼女の投稿にイイネボタンを押してしまう。そして、不意にその子のページが非公開設定になるのだ。気になった准くんは思わずコメントをして、とうとうその女の子に出会ってしまう。そう、運命の人に。 それが私で、最終的にあれこれして結婚する。
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