陶酔サイバーシティー

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「ごめん、冗談」 適当に誤魔化そうとして、変な笑いが出た。こいつに愛想笑いをやめろを言われたのを思い出したからだ。 もうどんな顔をして良いのかも分からずに黙った。 「あいつらと居たくないんじゃねえの」 だったらサボれば、ともう一度声が鳴った。東は相変わらず無表情だ。その顔のまま私を気遣うような言葉を発するから、もはや東を操る腹話術師がどこかにいるのかと思ってしまった。 可笑しな想像に笑えてくる。 もう馬鹿馬鹿しい。東にさえ同情されるほど惨めな女なのかと思えば馬鹿みたいに可笑しくなった。耐えることなく爆笑すれば、東は当たり前に可笑しなものを見るような顔をしている。 「ごめんごめん。ちょっと自分の痛さに笑えた」 「は?」 「東くん、私があんまり痛い女だから気遣ってくれたんだなって思うと笑えた」 いつも通り寝ててよかったのにごめんね、と呟いてから講義室へと足を踏み入れる。痛い女でも何でも、誰かが気付いてくれたことに笑える。 しかもあの東だ。 偶然あそこにいただけだろうが、もし私の様子に気づいて追いかけてきてくれたのだとしたら笑えない? 実はめっちゃいいやつだったりとか。
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