陶酔サイバーシティー

10/26

574人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
感情は常に常識と理性を飛び越えている。何度「会いたいです」と打ちかけただろう。同じ町に住んでいるんですねと言った私に、ミチコは「不思議な気分」と返してくれた。 それはどんなふうに不思議なんだろう。素敵な意味であれば良いと思う。 ミチコの励ましで、大学へもちゃんと行けている。最近はパリピ軍団が常に講義に来ているから何度でも呼吸困難になりそうになるけれど、そのたびにミチコとのやり取りを見直して心を落ち着かせた。 この距離をどうしたらいいんだろう。わからない。 「汐見さん、一緒にカラオケ行くー?」 「カラオケ?」 軽快に誘ってくる山本に、教材をしまいかけていた指先の動作が止まった。カラオケなんて滅多に行かない。自分は歌が下手だと理解しているから、あまり気が進まないのだ。 どう断ればいいのかわからずに口を噤んでいると横から橋谷が「絶対行くよね?」と凄んでくる。美人の顔に凄まれると、迫力に恐ろしくなってくる。どうして私なんかと一緒に行きたいと思っているのかわからない。 初めてパリピ集団に誘われて行った時、散々な結果に場がシラケたことを覚えていないのだろうか。 何も言わずに押し黙っている私の前で橋谷がぶりぶりとクソ可愛らしくごねていた。「みんなで行きたいのにぃ」と言われて思わず頬が引き攣りそうになるのを耐えた。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

574人が本棚に入れています
本棚に追加