陶酔サイバーシティー

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どうしようと思えば思うほどに言葉が消失する。デンモクを持たされたまま、一向に曲を選べない私に全員が注目していた。異様な空気だった。 「え、と……」 「汐見ー、AKBは? この間歌ってくれたじゃん」 ケラケラと笑った橋谷が馬鹿みたいに大きな声で言う。歌ったんじゃなくて、歌わされた曲だった。最近の曲が本当にわからない私が、赤っ恥をかくには最高の曲だった。 みんな知っているくらいに有名らしいメロディが鳴った。誰が入れたのかなんて知らない。少なくとも私の手に抱えられているそれから入れられたものでない事だけは確かだった。 軽快なメロディに可愛い女の子たちの本人映像が流れる。囃し立てるような手拍子が嫌に耳に反響していた。誰も助けようとしない。 誰一人私に興味なんてないくせに、ここぞとばかりに私の顔を笑っている。橋谷の口が、今までにないくらい口角をあげていた。 山本が凍りついている私に不思議そうな顔をしていた。悪い人ではなくても、きっと人の感情に聡い人間じゃないんだと思った。今更に。イントロの数十秒間に、嫌に冷静な自分が呟いている。 全員嫌いだ。全員大っ嫌いだ。代返なんてしたくもない。こんなふうに晒し上げるようなことをする人なんて軽蔑している。馬鹿みたいに騒いで、節操がなくて、自分たちがいつも輪の中心にいるみたいに思っている。
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