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皆みんな嫌いだ。人の傷に鈍感で、気付いてあげようともしないで、人の顔を底辺を見るみたいな目で見て、馬鹿にして蔑んで、自分が上みたいに笑っている。
みんなみんなみんな大っ嫌い。
そう思うのに、一つも言葉が出なかった。
「汐見ー?」
歌いだしになっても何も言わずにマイクを握っている私に橋谷が妙に興奮したような声をかけた。
馬鹿みたい。馬鹿みたい馬鹿みたい。
こうして馬鹿にするのが目的だって気付かずにのこのこついてきた自分が馬鹿みたいだ。いっそ消えてなくなりたい。皆死ねとか言って、この場から飛び出して行けばいい。金輪際関わらないでとか言って、思い切り啖呵を切ればいい。
こんなふうに私を大切にしてくれない誰かを大切にする必要なんてない。本当に大事にしなきゃいけない人は、もっと私を大切にしてくれる。だからいらない。こんなまやかしの関係にぶら下がる必要なんてない。
だから、だから、だから言えばいいんだ。
私はあんたたちの出席係じゃない。大嫌いだって、言えばいい。
そう思うのに、結局何も言えずにマイクを置いた。
「ごめん」
爆音のメロディにかき消された謎の謝罪は誰にも届かない。粉々になった心臓をおさえるように両手を胸にあててそのまま鞄の置かれている椅子まで移動した。
全員が「なになにぃ?」とか「え、入れといて歌わねえのかよ」とか笑っている。私はようやく空気からお笑いになったらしい。良かった良かった。
やっと昇格したんだ。おめでとう私。全然嬉しくなくて、笑えもしない。
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