陶酔サイバーシティー

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カラオケルームの半透明のドアまで駆けて、後ろから山本の声が聞こえた気がした。それさえも無視して部屋を出れば、少しだけ呼吸ができるようになる。すぐ後ろから、全く知らない曲のイントロが流れ出していた。すでに私は忘れ去られているのだ。 マジウケる。 途方もない吐き気に襲われてトイレへ走る。どうして上手くやろうと頑張っているのに、からまわってしまうんだろう。ついさっきの曲の冒頭をおぼろげに口遊んでみる。 以前メンタルをぼこぼこに壊されたときに、ひっそりと練習した曲だった。イントロだってサビだって分かっていたのにどうして歌えなかったんだろう。あの日の屈辱を払拭できたかもしれないのに。なんて、たらればを浮かべては洗面器に吐いた。 何て惨いことをするんだろう。 ただ生きているだけなのに、どうしてあんな風に馬鹿にされるのだろう。私がブスで馬鹿でメンヘラでクソ女だからなんだろうか。もうよくわからない。 ゲロで汚れた指先のまま、ミチコに“もうむり”と打って携帯を鞄に捨てた。もうむり。もう無理。もう無理だっての。 「おい」 俯いたまま、後ろからかかる声に泣きたくなる。なんでいるの、と思ったのは一瞬で、ああ、こいつもあの集団の中で私をリンチしてたのか、と笑えた。 「東くんじゃん」
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