陶酔サイバーシティー

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すすり泣く声が女子トイレに響く。それと同時に、あまりにも不似合な通知音が響いた。インスタだと思ったのは一瞬で、俯いた視界の端にいた東の靴が、こちらに動いたのを見た。 声をかける間もなく、私の鞄に触れて、携帯を取り出そうとする。その意味が解らずに、パニックになった体で東に抱きついた。 「な、な、な、なに……!? なにし、ているんです!?」 「鳴っただろ。見たいかと思って」 ビビって涙が引っ込んだ。なんだこいつ、という表情を浮かべていたのだろう。東が気恥ずかしそうに視線をそらす。そのまま「離れろ」と言われて素直に従った。 「か、かえして」 きっとミチコからの返信だ。返すように促したらあっさりと返却される。そのスマホに出ている通知を見て、思わず声が出た。 「ごめ、ん?」 読み上げた通りの謝罪に訳が分からなくなる。確か最後はもうむりと打ったはずだ。それにごめんだなんて訳が分からない。完全に混乱する私は目の前に東がいることすら忘れて画面に釘付けになる。 軽快な通知音がもう一度トイレに反響する。その通知がまたミチコからのメッセージを示しているのを見て、いよいよインスタを起動させた。 “泣かせたかったわけじゃない” その言葉に、指先が震える。俯いた顔をあげられない。そんな。まさか。そんなわけがない。
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