陶酔サイバーシティー

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「マジで泣くなって」 「う、まっ、て……」 抱き締められているのだと気づいたら、訳が分からなくなった。ミチコが東で、東がミチコで、つまり、東には、私の全てがばれていて、ミチコの投稿は、いつも東がしていたもので、東は人気インスタグラマーだったってことだ。 全然信じられない。そんなもの、興味もなさそうな男なのに。 「まって、ミチコなの?」 「それお袋の名前だけどな」 「ええ……、私、おんなのこだと、おも、って」 「だから悪かったって」 「な、に、なにこれ……。なんでだきしめてくれてる、の」 「はあ? そこかよ」 背中で小さく笑った音がする。東は、ミチコは、こんな風に笑うらしい。初めて見たと思った。それがまた可笑しい。 「たまたま、お前が授業中インスタ弄ってんの見たんだよ。興味本位でアカウント作って……。それだけ。あとはお前の知ってる通り」 「ええ……、ぜんぜんわからない」 「クソ鈍感女だからしょうがないんじゃねえ」 さくっと刺してくる言葉になぜか笑った。口悪い、というと、「言うようになったな」と笑われる。 確かにその通りだと思った。人の目を見て言葉を選ぶのがどうでも良くなった。というか、私が馬鹿みたいな自撮りをしていたこととか、クソメンヘラなこととか、全部筒抜けなのだ。
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