陶酔サイバーシティー

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「祐くん、これ見て、めっちゃきれい!」 「ああ」 「ほんとテンション低い」 「うるせぇ」 「あ、あれ! あれインスタに投稿してよ」 「はあ?」 「ミチコっぽいもん。インスタ映え~」 「馬鹿にしてんだろ」 「いやいや! ほら貸して」 「おい……」 「ほら! ほらほら綺麗に撮れたー!」 「へえ」 「これ投稿するよー。祐くんが言わなさそうなコメントつけるわぁ」 「おちょくってんだろ」 「はい、これ『いいねボタンお願いします』」 「……貸せ」 「えー! 絶対消さないでよ?」 優子が馬鹿笑いしている。インスタのクソケバい顔でもなくて、仮面を貼り付けたような顔でもなくて、はじめて見た日のような、心底可笑しそうな顔だった。 『ひがしくん? って読むの?』 どうせ本人はとっくに忘れているだろう言葉に苦笑する。 『ふふ。ずっと寝てたね。ノートいる? あんまり字、綺麗じゃないけど』 その文字に惚れたんだと言ったら、こいつはどんな顔で俺を笑うんだろう。 「はい、投稿した」 「え、はや! 何なに? 今見るー」 携帯に釘付けになるそいつの指を攫って、歩き出した。イルミネーションもインスタ映えも知らないやつらのイイネもクソどうでも良い。 「優子」 「ん?」 「メシ行く?」 「あ、いいね!」 ボタンなんてどうでも良いだろ?
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