妄想アイデンティティー

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筋書き通りなら、そろそろ彼が私のページを見に来るころだ。それなのに、一向にその気配はない。どうしてなのだろう。彼から誤ったいいねが来るどころか、いいねなんて一人からしか来ない。それも、私と同じような、底辺インスタグラマーだ。 意味もなく自分のページに飛ぶ。どうせいいねなんてついていないことを理解していながら、一時間前に投稿した画像を見つめた。完璧な角度で撮った自撮りは、きっと誰にも私だと気づかれないだろう。それくらいに作り上げているのに、いいねなんてこない。 そもそも私をフォローしている人間はたったの15人だ。それもただフォロワーを増やしたいがために私をフォローしてきただけの人間だから、こちらの投稿を気にかけているわけがない。世界は驚くほど私に興味を失っている。 現実は本当に退屈だ。 准くんの更新は一日一回だから、もう今日は見る必要もない。自分の最新投稿に何一つ反応がないことを確認して、電源を落とした。 リアルと妄想の狭間で絡まっている。 眠れない瞼を無理やりに擦りあわせる。手繰り寄せるように指先でベッドランプの電源を探り当てて、電気を消した。一瞬で全てが消える世界に一人寝そべったまま、スマホに充電器のプラグを差し込んだ。
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