妄想アイデンティティー

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薄く瞑る瞼の先に、光る画面を感じる。どうせたいした通知ではないと理解していながらももう一度瞼を押し上げた。 「あ」 先ほどの投稿にいいねがついたことを知らせる通知が見えて瞬間にまた目が冴える。 全体が白で統一された画面は、夜目に悪い。 明らかに瞳を壊しに来ているライトを浴びながら、いいねされた投稿を見つめた。想像通り、そのいいねは准くんからではなくミチコからのものだった。アカウント名がミチコだから、そのままミチコと呼んでいる。 投稿は常に風景だから、見ていてイラつくこともないし、疲れることもない。いつも私の自撮りにいいねをつけてくるから、自然と私も彼女の投稿にいいねをタップするようになった。 特にいいねと思ったことはないが、付き合いだから仕方がない。なぜネットの世界にも付き合いが生じるのかは、私にもよくわからなかった。ただ、そうするべきだろうと感じたから、しているまでだ。 いいねがつけられたということは、ミチコもインスタを投稿したのだろう。想像したようにいつも通りのミチコの投稿があって小さく笑った。 ミチコはたびたび猫の画像をあげているから、きっと動物が好きな女の子なのだろう。一度も顔を見たことはないが、底辺同士、勝手に仲間意識を感じていた。 今度こそスマホを手放して、瞼を下ろした。今日はどんな准くんと恋愛しよう。実はミチコが准くんで、私のアカウントを監視しているとかいうのも良いかもしれない。 准くんはとことん私がすきなのだ。
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