妄想アイデンティティー

8/22

574人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
汐見(しおみ)ー。代返頼んでいー?」 「ああ、うん……」 例えば何度か考えたやり直しがある。人生においてやり直したいことくらい人間なら一つや二つや三つくらいあるだろう。私の場合、まず都心に生まれなかったこと、両親がブスだったこと、大学受験に失敗したこと、クソみたいな性格を直せなかったことがそれに当てはまる。どうせそれ以外にもやり直したいことは山積みだ。むしろやり直さなくてもいいと思える瞬間がない。 くだらない人生くだらない生活くだらないリアリティ。全部がクソだ。 にへらと笑って、出席票を渡してくるパリピに「出しておくね」と呟いた。死ねクソ食らえ地獄落ちろよと思っても言えない。私はここでも最底辺だから。 私の回答に満足した女が「ありがとぉ」と言った。「友達だもん、当たり前だよ」と吐いたら、女は一層満足そうに微笑んで、私に抱き着いた。煙草と汗と制汗剤と、それからミスディオールの匂いがする。准くんが、女の子っぽくて割と好きだと言っていた香水だから知っている。それもここまで強烈な複合物として香っていたら公害ものだった。 友だちだなんて思ったこともない。私の中ではミチコ以下の存在だ。きっと、この女にとっての私もムシケラ以下だろう。 「じゃ、よろしくぅ」 「うん。またね」
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

574人が本棚に入れています
本棚に追加