男達のバージンロード

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 娘をもつ父親にとって最大の栄誉とは何か、おそらく答えは千差万別で百人に聞いても全て同じにはならないだろう。  この日、父親にとって一つの栄誉とも言える儀式をかけて、ちょっとした戦いが繰り広げられていた。   「バージンロードを歩くのはこの俺だ!」 「いーや! 私だね!」 「ちょっとやめてよお父さん達!」    結婚式を前日に控えた今日、式場スタッフとの打ち合わせやリハーサルのために訪れたのだが、そこで花嫁の両親がどちらがバージンロードを歩くのかを揉めていた。  バージンロードとは花嫁の人生を表し、そこを一歩一歩踏みしめながら花婿へと娘を託す。  通常なら父親と共に歩く事が多いが、この花嫁の場合父親が二人いるのでどちらが歩くか揉めていたのである。   「もう! 喧嘩するなら私一人で歩くからね!」    別にバージンロードは誰と歩いてもいい、母親と歩いてもいいし友人とでも、なんなら一人で歩いてもいい。この辺は自由なのだ。   だが一生に一度あるかないかのイベント、お父さんとしては歩きたいのだ。   「く! それなら勝負して決めるほかない!」 「面白い! いくぞ!」 「なんでそうなるのよ」    花嫁の家庭は少々特殊だった、それというのも父親二人が同性婚の家庭だったからだ。法律で同性婚が認められるようになったとはいえ、周囲への理解は得られたとは言えず、花嫁の幼い頃は嫌がらせが多かった。  花嫁は片方の父親の姪であり、事故で両親を亡くした後、当時花嫁と仲の良かった二人が引き取ったのだ。   「「叩いて被ってジャンケンポン!!」」 「だらっしゃああああ!!」 「うぉらああああ!」    ジャンケンで買った方が相手の顔へストレートをねじ込み。負けた方はカウンターをキメてダウンを測った。   「私の知ってる叩いて被ってジャンケンポンじゃない」    両者、共に後方へ投げ出されダウン。結果、引き分け。   「やるじゃないか、俺が惚れたあの頃と大差ないぜ」 「お前こそ、私が好きになった目付きは変わらずだ」    イチャつきはじめた。   「次の勝負だ!」 「おう!」 「「カバディカバディカバディカバディカバディ」」 「いや、二人共カバディのルール知ってるの?」 「……」 「……」    ピタッと硬直する二人。   「引き分けだな」 「ああ」 「いやいやいや」    結局なにをやっても勝負はつかず、リハーサルの時間になってしまった。   「仕方ない、コインで決めよう、表がでたら俺、裏が出たらお前」 「いいぞ、ただしそのコインがイカサマじゃなければな」    そう言ってコインを取り上げたら、なんと両面が表のイカサマコインだったのだ。   「ふっ、よく見破ったな」 「結婚してから何年経つと思ったんだ? お前を見続けて数十年だぞ?」 「のろけ? のろけなの?」    子供は両親がイチャつきだすと戸惑う事が多い。いっそ呆れ果ててしまう。  このバージンロードをかけた争いも影法師の如き無意味さを見出してしまい、最早花嫁も適当な物言いしかしなくなる。   「もうさ、二人一緒に歩く?」 「「それだ!」」    それになった。  かくして二人の父親とバージンロードを歩く事となった。  
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