1人が本棚に入れています
本棚に追加
あなたのシルエットを思う
「文香、この頃のこと覚えてるかな?」
改札口から駅の外へ出ると、同時に私のスマホが鳴った。そのショートメッセージはお母さんからだ。
送られて来たメッセージに続けて1枚の写真が届いた。それは、小さい私がお母さんにおんぶされている写真。その2人の姿は夕日をバックに陰になるシルエットだけが写っている。
この写真が超絶エモく感じた。
私は生まれて眩しい世界があることを知った。あなたはその大きな背中で、私を支えて少し高い景色を見せてくれた。
そりゃあ、意識しないとその頃を思い出せないくらい私も成長したから、あなたと背丈は同じぐらいになる訳だし、あなたと交わす会話が少し知的に聞こえるようにもなった。
「そういえば、よく駅にも一緒に買い物に来たっけか」
誰にも聞こえないくらいの声でそんなことを口ずさんでは、スマホで時間を仕切りに確認した。今日は早く帰って色々とやらなきゃいけないことがあるからだ。
「あ、文香」
私が駅前のロータリーのバス停でバスを待っていると、彼が声を掛けてきた。
「お、うっす! 新治久しぶりぃ」
私は右手を挙げて答える。
今は高校こそ違うが、家は近所だから帰りのタイミングによって月に2度くらいの頻度で2人、駅前のバス停でばったり会う。
「お前さぁ、相変わらずその話し方なのな」
幼馴染みのせいか、新治は私の言動にいつもうるさい。ついこの前も私の髪型に対して『派手だな』と指摘してきた。
「良いじゃん別に、あんたこそ私に話し方どうこう言ってる前に彼女の一人や二人作れよ」
「お前な、そのネタで俺に振るのやめろって」
「私はマジで言ってんだって、新治の彼女を見るまではおちおち夜も眠れないっての」
私は手元に視線を落として、スマホをいじりながら素っ気なく新治に言って返す。彼は私の後ろに立ってバス待ち列の最後尾を陣取ってる様だ。
「ほっとけよ。あと、お前だって彼氏出来てないじゃねぇか」
「うっせーって、彼氏いるかもしれねーだろ」
一見、他人が聞くとケンカにも聞こえそうな2人のやり取りだけど、私達にとってはいつもの他愛のない会話なんだ。
「いるのか?」
「さぁ、どうだろうね。あ、バス来た」
バスの後部ドアが開き、私達は他の乗客に続き最後に乗り込んだ。いつも、この時間の乗客は3、4人くらいで少ない為、よく一番後ろの長いシートの席が空いている。私達はそこに人1人分の間隔を空けて座った。
「最近お母さん元気?」
「ウチのお母さん? まぁ元気だけど」
「そうか、まぁ元気なら良いや」
「つーか、なんで急にお母さんのことが出てくるんだよ」
「文香、本当にその話し方やめた方がいいぞ」
新治にまた釘を刺されたが、私はスマホから視線は外さずに聞こえないふりをした。
『発車します』
車内アナウンスと共にバスはゆっくりと走り出して出発した。
最初のコメントを投稿しよう!