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それとも、今まで屠ってきた者達が蘇ったか。
漆黒を見つめながら、彼は身構える。
腰に帯びた剣の柄を握る手へ力を込めた時、闇の中にゆらりと人陰が浮かび上がった。
だがその姿は、何かがおかしい。
「何者か? 」
彼の声に、人陰は歩みを止める。
ややあって、掠れた男の声が彼の耳に届いた。
「……殿下………いや、陛下……」
「我を誰か知りながらここへ来たか。その度胸の褒章として、我自ら手打ちにして……」
「……お許し願い……陛下……私は……貴方の……」
彼の言葉を遮って、侵入者は続ける。
そして、再び彼に向かい歩みを進める。
唐突に雲が切れた。
月明かりが差し込むと、侵入者の姿があらわになる。
その顔は、彼が見知ったものだった。
「お前は……。戻っていたのか? 兄者は……」
侵入者が近付くにつれ、血の臭いが強くなる。
「……お願いいたします……私を……私の罪を……お裁き……」
手を伸ばせば触れるほどまで侵入者が近付いた時、ようやく違和感に気がついた。
侵入者には、本来有るべきものが無かったのである。
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